現行の機械式懐中時計はリューズでゼンマイを巻く手巻き式が主流。この手巻き機構は19世紀前半に開発され、現代まで続いてます。ではリューズ巻きの前はどうやってゼンマイを巻いていたのか?
16〜19世紀まで主流となっていたのが、専用の鍵を使ってゼンマイを巻く鍵巻き機構。鍵の紛失や鍵を挿し込む手間から後のリューズ巻きへ進化するが、それまでは手巻き時計といえば鍵巻きが当たり前の時代。外国の古い写真など見ても、スーツのベストから鍵を垂らしているスタイルが多く見受けられます。
今では廃盤となりヴィンテージでしか手に入らないが、この鍵巻きを現代版として復活したのが、スイスブランドのティソ(TISSOT)。専用の鍵が付属し、レトロな鍵巻きを再現している珍しい時計。
おもしろいのが、この懐中時計に使われているムーブメント。実は現行のユニタスムーブメントで、ガラスの丸穴車部分に穴が空いており、ここへ鍵を差し込み巻き上げを行います。この構造はアンティークの鍵巻き時計と同じだが、現行のムーブメントということもあり、リューズ巻き上げも可能になっているんんです。
最悪鍵を紛失してしまってもリューズで巻き上げが可能なため、何ら不便を感じることなく使え、鍵巻きのレトロさも味わえるハイブリッドな懐中時計。わざわざ鍵を挿して巻くときの手応えは、一度味わうとクセになります。まさに手間を楽しめる時計。
話はそれますが、昔の単車はハーレーダビッドソンのパンヘッドのようにキックスタートのみでエンジンを始動する「キックオンリー」でしたが、その後開発されたセルスターターの普及により、キックでもセルでもエンジンがかけられる時代のバイクを、この時計を見ていると思い出します(笑)。
現代ではほぼセルスターターのみのモデルが多くなり、キックスタートは旧車の楽しみ方の一つとなりました。
現行のティソは機械式懐中時計の生産が終了してしまったため、こういうおもしろみのある懐中時計はヴィンテージ品でしか楽しむことができなくなった、貴重な存在です。

正美堂時計店 ウォッチバイヤー兼時計修理三級技能士 合田圭四郎
主な専門分野
腕時計や懐中時計の仕入れ、販売、オリジナルウォッチのデザインや組み立て。スイスで開催されていた世界の見本市バーゼルワールドや香港ウォッチフェアーなど国内外の展示会への参加。秋葉原にて毎年懐中時計の展示会を開催
時計知識を深めお客様に時計の魅力をお伝えするため、2009年より毎週日曜日YouTubeにて時計に関する勉強会動画を配信。
背景
1979年、高知県高知市の老舗呉服屋の四男として誕生。時計好きが高じて2006年より正美堂時計店に入社。フライトジャケットやジーンズなどアメカジ、バイクをこよなく愛する。あらゆるお客様の環境を理解するため、腕時計は常に左右両方に着用。2019年、正美堂時計店創業50周年の節目の年に正美堂オリジナルウォッチを開発。
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