世界的に有名なスイスのムーブメントメーカーと言えばETA社です。古くから長きに渡り多くのブランドに最もと言っていいほど採用された機械と言えるでしょう。汎用性の高いETAを使わず、独自で開発されたオリジナルムーブメントの事を、よくマニュファクチュールと呼びます。
ETAのムーブメント供給停止(時計業界の2010年問題)の以前から時計雑誌などで多くみかけるようになったキーワード、マニュファクチュール。これはムーブメントやパーツを一貫で製作するメーカーを指す言葉で、ある程度資金と技術を持っていないと真似できません。
高級時計によく使われる言葉なので、いい時計を象徴するキーワードになっていますが、オリジナルムーブメントではない=いいブランドではない、という事は全くありません。
そもそもETA社のムーブメント供給停止はなぜ行われる事になったのか?
ETA社は世界でも最大クラスの時計グループであるスウォッチ・グループに属しています。懐中時計では定番のムーブメントである「ユニタス」やクロノグラフムーブメントで代表的な「バルジュー」などが過去にETA社へ合併吸収され、現在のETA社があるのです。
ETA社のムーブメントは最も汎用性が高いと人気がありますが、納入されるブランドで手が加えられてはじめて完成します。
よく「エタポン」という言葉が用いられます。これはETAのムーブメントをそのままポン付けしたという意味で、決していい表現ではありません。
時計の裏蓋を開いてみると、自動巻きの時計はまずゼンマイを巻き上げるローターが目に入ってきます。そのままムーブメントを使っている場合、無加工なので自動巻ムーブメントの顔となるローターにブランド名が無記入となります。
ムーブメントを供給された各社が、ゼンマイを調整し長時間の駆動時間をたたき出すなど、加工に力を入れていればよかったのですが、そのまま使ってしまうブランドが増え、嫌気が差したETA社が供給停止を発表したのです。
一昔前であれば、スイス製時計=いい時計というイメージがありましたが、ETAムーブメントのポン付けなど見ていると、必ずいい時計であるというイメージではなくなります。
つまり、現代では必ずしもスイス製がいいわけではなくなるのです。評判のあまりよくない中国製であっても、たまに「これは」と思える物があったりします。
時計の価値をどこに見出すかというのは、手に入れる人それぞれの感覚で千差万別となりますが、売却するときの買取価格などではなく、その時計をどれだけ愛用していたいか、を考えると自身の時計に対する好みや趣向に従うべきなのです。
周りがどんなにいい時計と評しても、自分自身が気に入っていなければその人にとって価値はあまりありません。
10年後も20年後も変わらず愛用していたい時計は、その人にとって価値がある時計と言えるでしょう。
バイヤー:合田圭四郎